2021.08
「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」で横浜の皆さまと新たな賑わいをつくる。
(株)バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長
一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE 代表理事
宮河 恭夫 氏
Profile
ガンダムGLOBAL CHALLENNGE代表理事。株式会社バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長。元株式会社サンライズ代表取締役社長2000年代のサンライズにて、「機動戦士ガンダムSEED」シリーズ、「機動戦士ガンダム00」シリーズをプロデュース。2009年の実物大ガンダム立像、本企画(GFY=GUNDAM FACTORY YOKOHAMA)を主導。
2019年4月1日より現職。
私の企画はたいてい反対されるでも反対されるとワクワクする
私は40年前にバンダイに入社しました。当時は『機動戦士ガンダム』のテレビ放送が始まった頃で、ガンプラが社会的なブームになるタイミングでした。そのガンプラの営業をはじめ、さまざまな仕事をしてきました。これまで多くのコンテンツに関わってきた中には、大ヒットもありますが大失敗もあります。僕が企画を立てるとだいたい周囲から反対されます。
でも反対されるとワクワクするタイプ(笑)。
私が大切にしているのは、若い頃に仕事をさせていただいた仮面ライダーの原作者である石ノ森章太郎先生から言われた「宮河君、自分の企画に10人中8人が反対したら大ヒットか大失敗、8人にこれいいね、と言われたらクリエイティブの才能がなくなったと思った方がいいよ」という言葉です。これはこれまでの私の経験からいっても本当にその通りです。
270億円の赤字 壮大な失敗
私にはすごく大きな失敗体験があります。「ピピンアットマーク」というバンダイ・デジタル・エンタテインメントとアップルコンピュータが共同で開発したマルチメディア機ですが、世界で最も売れなかったゲーム機として知られています。それまでにいくつかヒット作を出していた私はおそらく天狗になっていたんでしょうね。子会社をつくってもらい、自分では〝世界が変わる〞と思って取り組みました。でも構想とテクノロジーのギャップで、結果、270億円の赤字を出して撤退しました。
三歩先より半歩先をカタチにする
辞職を覚悟して、当時の社長のところに行ったら「普通の会社ならクビだけど、失敗しないためのノウハウを得たんだろうから一生働いて返せ」と言われたんです。この失敗で学んだことは二つ。一つは今でも社員に言っているのですが「三歩先より半歩先」。
企画を立案するとき、新しいことを考えますが、三歩先だとテクノロジーや消費者の考えなどがついてこられないことがあります。これは色々なビジネスにおいてあてはまるのだと思います。半歩先の難しさはリードタイムを見越してその半歩先を考えることです。カリスマのような人は別にして、僕のようなタイプは三歩先の夢を描きながら半歩先を考えていくことが重要だと思っています。
挑戦者として分不相応なことはしない
もう一つは、挑戦者として取り返しのつかない、分不相応のことはしないことです。2年間で270億円の赤字を出して、たまたまそのときに「たまごっち」という救世主が現れてバンダイは倒産せずに済みましたが、自分がどのくらいの規模の事業に取り組んでいて、万一失敗した場合に会社が倒産してしまうようなら、その挑戦は考えた方が良い。この二つは私にとって大きな教訓になりました。
伝統や慣習を壊して新しいものを創る
その後、私はアメリカに行き新しい事業を立ち上げていたところ、本社から連絡が来て、帰国してサンライズというアニメの制作会社に行くことになり、プロデューサーを務めました。そこで『機動戦士ガンダムSEED 』というヒット作を生みます。ヒットの背景でいくつか業界の掟を破ってしまったのですが(笑)、そのひとつが放送のワンクールごとに音楽を変えたことです。
従来、アニメ番組は放送期間中、オープニングもエンディングも変えません。だから何十年経っても記憶に残るんです。しかし私は当時音楽が記憶に残るものから消費される時代に変わったと感じていて、それぞれ1年間で4回変えました。もちろん周囲から大反対されましたが、これが今ではスタンダードになっています。
伝統として残っているものを守ることを尊重する一方で、伝統を壊しながら新しいものを創っていくやりかたもありだと思います。反対されて成功させて、それをスタンダードにしてきたというのが私のサラリーマン人生の在り方のひとつです。
記憶ほど大切なものはない
『機動戦士ガンダム』が30周年を迎えるにあたり何をしようか考えたときに、普通映像プロデューサーは映画を製作したりするんでしょうが、私は「実物大のガンダム」を建てようとひらめきました。それでグループの役員会議に諮ると、相当な資金もかかるので難色を示されたのですが「私たちは『夢・遊び・感動』というスローガンを掲げているはずだ」と説得し、同意をもらいました。
私はファンのみなさんが、見た瞬間に格好いいと喜んでくれれば、それだけでいいと思いました。やはりお金で買えない価値とは感動なんですよね。結果として52日間で415万人のお客さまに来ていただきました。「良かった」「面白かった」と言われて、記憶ほど大切なものはない、ということを痛感しました。これは東京都と連携して実現したのですが、行政と一緒に仕事をしたことも大変勉強になりました。
仕事は数字でなく熱量
私は社員にも言っていますが、仕事は「数字ではなく熱量」だと思っています。企画書に売上予測とか記してあると、見るのを止めます。新しい事業をスタートするとき、数字ではなく熱量しか見ません。たとえばBリーグに所属しているプロバスケットボールチーム「島根スサノオマジック」を運営するスポーツ事業を始めたときも、誰が島根に行って骨を埋めるくらいの覚悟があるのかを聞き、「行きます」と言った社員がいたので「じゃあやろう」となりました。今では社員もわかってきて、売上予測などはもってきますが「自分がやります」と必ず言うようになりました。
地元の皆さまと横浜を盛り上げる
さて次に、40周年では何をするんだという話ですが、実は30周年のときにある方から「立っているだけで415万人集められるなら、動いたら凄いことになるね」と言われました。それを思い出して「〝動くガンダム〞を作ります」宣言をしました。
「一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE」を設立して、世界中から知恵とアイデアを募集し、優れたエキスパートの方々に参加していただき、企画から設計、実験などを重ねて〝動くガンダム〞を作り上げました。
「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」での展示にあたっては、横浜の皆さまの多大なご協力をいただきました。やはり我々だけでできる事業ではなく、地元の皆さまと手を取り合って運営していくことが重要です。
私たちも新しい演出などでもっとアピールしていきますので皆さまと一緒に盛り上げていきたいと思います。今後横浜がいっそう賑わっていくことを楽しみにしています。
6月23日
県民ホール
第10回通常総会記念講演要旨