2025.03
子ども一人ひとりの可能性を信じて、 心に火を点けてあげることが、私たちのミッションです。
NPO法人自遊 理事長
野下 卓泰 氏

Profile
平成9年9月22日、兵庫県生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。小学校・大学・専門学校講師・NPO法人自遊理事長。小学校3年生から野球を始める。県立相模原高校時は、関東大会出場。大学まで現役でプレー。大学院進学時から少年野球に関わる。
まずNPO法人自遊について紹介をお願いします。
私たちは、学童野球チーム「横浜Jブルーウインズ」の運営を行っています。元々はNPO法人「みなとみらいクラブ」の野球部門として6年前に生まれたのですが、3年ほど前に80人ほどの人数になりまして、新たにNPO法人を立ち上げて独立し、法人としては2期目になります。活動は主に西中学校や岸根公園などで行なっています。
ホームページを見ると、チーム構成も独特ですね。
野球界はチーム競争が厳しい世界で、小学生から常に上達と勝利を目指して練習していくという姿勢が多いなか、私たちは子ども達や、保護者が野球をする選択肢を増やしてもらうために『楽しく野球をやろう』というところからスタートしました。ところがそのなかでも「もっと上手く強くなりたい」という子どもも増えてきました。そこでライトに野球を楽しむSチーム(1年〜4年生対象)と競技として野球を突き詰めていくAチーム(5、6年生対象)、Bチーム(1〜4年生対象)という2種類のチームを用意しています。ただし私たちのビジョンとして「ブルーウインズは選手1人1人が『自ら考え、自らの力で一歩踏み出せる力』を育てるチームです」と掲げているように、すべての子どもにスポーツを通して色々なことを考え、それぞれの能力を育んでいってもらいたいと思っています。
チームの理念に「選手1人1人の立場、志向に合わせたティーチング&コーチング」「失敗できる、失敗を恐れない人材を育てる」「選手同士、選手、指導者との対話を大切にする」といったことがあるように、選手ファーストであることが印象的です。具体的にどのような指導を心がけていますか。
独自なのかは分かりませんが、たとえばミスとの向き合い方でいうと、ミスを咎めるとミスを怖れてプレーも守りに入っていきます。しかし、外野守備でスライディングキャッチを試みても勝負にいくべき局面があって、そこは結果として捕れなくても褒めるべきだと思います。逆にビビってワンバウンド処理すれば記録上エラーは記録されませんが、それを良しとするか子どもたちにも問いかけます。指導者としても良いミス、悪いミスというものを突き詰めて考え話すべきだと思っています。
また先ほど楽しく野球をやると言いましたが、子どもたちにも楽しくやるってどういうことか、真剣にやるってどういうことか考えてほしい。そういう接し方のなかで、子どもたちがどういう目標を達成したいのか確認して、そこを後押ししていくことを大事にしています。
ブルーウインズでは一般の野球チームによくある、練習や試合会場への保護者の送迎がないらしいですね。
基本的に会場までの行き方を自分たちで調べて自分たちの足で向かいます。低学年はスタッフがフォローしますが、保護者に頼るのではなく「野球をやりたいから」行く気持ちと、社会生活に必要な公共機関の乗車マナーをセットで育みたいからです。子どもを信じて見守るのがブルーウインズです。

話は変わりますが野下さんは昨年、侍ジャパンU12代表のコーチを務められましたね。その経緯を教えてください。
昨年11月に開催されたアジア大会に向け、コーチの公募がありました。プロで活躍された仁志敏久さんが監督、江尻慎太郎さんが投手コーチです。公募要件の1つにあった日本スポーツ協会の軟式野球指導者資格「コーチ3」を保有しており、応募したところご縁があって就任が決まったのです。
面接でU12に選ばれる子どもたちにどうなってほしいか問われたときに、プロ野球選手になってほしいとか、大リーグに挑戦するような選手になってほしいといった話は一切しませんでした。
「将来、彼らが仮に野球を辞めたとき、大人になったとき、このU12の経験が生きている、自立を学べた、自分で考えて動くことを学んだと言えるような一ヶ月間にしたいです」と答えました。
あとで分かりましたが仁志監督も同じ考えだったので、そこが採用していただいたポイントだったかなと思います。少し残酷な話ですが、昨年U15のワールドカップで日本は優勝したのですが、そこには3年前のU12の代表選手は一人も入っていないのです。中学時代で抜かされてしまっているんですね。
U12の経験者で過去に数人プロになった子はいますが、高校で日本代表になったほうがプロになる確率は高い。だから野球を辞めたとき、U12に選ばれたことが苦い思い出になるのではなく大きな価値があったと実感できる体験にしたいと言ったことが評価されたのではないでしょうか。
代表コーチとしての経験は野下さんにとっても大きなものだったでしょうね。
そうですね。大会自体は日本は3位でしたが、本当に幸運な機会をいただいたと思っています。
野球の考え方や技術面はもとより、プロのトップで活躍された仁志さんが子どもを指導するにあたり、自立を考えていたこと、そして子どもたちがわずかな期間で変わっていくのを目の当たりにできたことも含めて素晴らしい経験でした。
また仁志さんも江尻さんも本当に未だに学ぶ姿勢を持ち続けているんですよね。トップを極めてきた人でも常に謙虚に学んでいる姿から得ることは多く、刺激を受けました。また私たちの「指導者が学び続けるのは当たり前」という理念の正しさも再認識できました。
これからのNPO法人としての活動の方向性や抱負を聞かせてください。
スポーツ庁の考え方として中学校の運動部活動を学校から切り離し地域展開していく流れになっています。部活動の指導は外部に委託されるようになっていくと思いますが、私たちは中学校の軟式野球部の受け皿として事業の裾野を広げたいと思っています。元々そこを視野にNPO法人を設立したのですが現在より具体的な展開を見せています。ブルーウインズについていうと、私のミッションとして変わらないのは、子ども一人ひとりの可能性を信じて、一人ひとりの心に火を点けてあげることです。未来ある子どもたちが強いエネルギーをもって歩んでいけるようサポートしていきたいと思います。
中法人会の会員へメッセージをお願いします。
経営者の方とお話させていただくと学ぶことが多々あります。今後何らかの機会でお会いすることがありましたらご指導いただきたいと思います。また野球チームに関わらず、子どもの未来をつくってくのは学校と社会だと思います。私たちの理念に共感いただき「会ってみたい」と思っていただける方がいらしたら本当に嬉しいです。ぜひ勉強させていただければと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
税経研修センターにて(2024年12月13日取材)
インタビュアー 広報委員 酒井