2020.12

2020.12

素晴らしいコレクションを軸とした「みる、つくる、まなぶ」活動を展開していきたい。

横浜美術館館長
蔵屋 美香 氏

蔵屋 美香

Profile

1966年 千葉県生まれ。1993年より東京国立近代美術館勤務。2008年より同館美術課長、2016年より同館企画課長。2013年 第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館キュレーター(特別表彰)。2018年 第7回横浜トリエンナーレアーティスティック・ディレクター選考委員会委員。2020年4月、横浜美術館館長に就任

今年の4 月に横浜美術館の新館長に就任されましたが、就任後に改めて感じられたことなどありますか。

私は東京国立近代美術館に26年間勤めていました。国立ですからお客さまも全国からいらして、国民の皆さんに向き合う姿勢が常に求められていたと思います。また皇居に隣接するような立地であり周囲に住宅があるわけではありませんでしたから、地域性というものはあまり考えたことはありませんでした。一方、横浜美術館はまず横浜市民のためにあります。これがまず私にとって新鮮でした。そして市内18区には市民の皆さんがいて、多くの企業があり、さまざまな特徴をもった地域がある。しかし、だからといって、横浜美術館は地方美術館なのか、というとそうではありません。規模はもちろんコレクションの数、ヨコハマトリエンナーレという現代美術の国際展の開催などからも、日本を代表する美術館の一つでもあります。地元の方のためにという面と、世界に向けた発信という面とを両立させた美術館であると思っています。

館長は横浜とはゆかりがあったのでしょうか。

私は千葉生まれの千葉育ちで、社会人生活は東京でしたから、ゆかりはありません(笑)。以前より、一人の観客として横浜美術館には頻繁に来ていましたが、このようなご縁をいただくことは想像していなかったのでお話しをいただいたときは驚きました。

館長職を引き受けた決め手はどのようなものでしたか。

東京国立近代美術館も規模が大きくコレクションも充実していましたし、愛着のある収蔵作品も多くありました。私は学芸員としてコレクションの研究をしたり、展覧会を企画したりといった仕事をしてきましたが、館長職というのはそういう仕事と同時に経営や労務管理などもみていくわけです。これまでと比べてもう一つ大きな視点から美術館全体をみていくという経験をするのもいいかな、と思いました。また横浜美術館のコレクションが素晴らしいことも決め手の一つでした。これまで美術館では海外や国内から作品をお借りして企画展を開催してきましたが、コロナ禍などの状況におかれると、作品の移動がとても厳しいですよね。横浜美術館にはシュルレアリスムや写真、原三溪ゆかりのコレクションなど世界レベルの作品をはじめとする約12000点という素晴らしいコレクションがあることも、決断を後押ししました。

美術館の女性館長は全国的に見て少ないのでしょうか。

そうですね、日本では美術館の館長職は60歳過ぎてから就任というケースも多いようなので、まず若いという点で珍しいケースでしょうか(笑)。女性の館長も確かに少ないのですが、この20年くらいで美術の現場は女性が占める割合が非常に高くなっています。5年、10年後には女性館長というのも珍しくなくなっていると思います。

現在、ヨコハマトリエンナーレ2020が開催中(9月8日取材時)ですが、開催においてはご苦労もあったことと思います。

2月末から開催していた展覧会を新型コロナウイルスの影響で会期途中で終了しました。その後も休館が続くなかで、ヨコハマトリエンナーレのチームは開催と中止の可能性が半々というなかで準備を進めてきました。最終的には緊急事態宣言が解除され、横浜市の判断としてゴーサインが出されたのです。特に林市長はご自身も芸術を愛される方で、コロナ禍においてあまりにも社会的な雰囲気、そして生活にも元気がなくなってしまった状況に対して、今こそ芸術が必要だ、という強い意志をもってご決断されたと思います。感染拡大防止対策において予約制、人数制限、消毒や動線など万全を期しての開催となりました。今回のヨコハマトリエンナーレには「毒と共存する」というキーワードもあり、コロナ禍において人々に訴えるものがたくさん含まれているので、発信する価値が大きいと思っています。

反響なども届いているかと思いますが、手応えとしてはいかがですか。

実は横浜美術館の協力会をはじめとする地元企業の皆さまへの就任のご挨拶もこの状況で遅れまして、7月に入りようやく回らせていただきました。そこでいろいろなお話を聞かせていただくにあたり、皆さまの厳しい状況を知りました。ヨコハマトリエンナーレについて、明るい話題だと非常に喜んでいただきまして、人が集い、お店が開き、賑わいを取り戻すうえで少しでも貢献できていることを知って開催して良かったとつくづく思いました。

今後の展望や抱負について聞かせてください。

今考えていることは大きく二つあります。一つは横浜は港町なのでさまざまな文化や人々が行き交います。美術館も多様性をもって、色々なバックグラウンドをもった人が交流し、意見交換できる場にしていきたいと思います。言うなれば美術館が「港」のようなもの、というイメージで考えています。もう一つは、コレクションを軸とした展開です。日本の場合、美術館ができた経緯がお祭りから始まっているようなところがあります。江戸時代まで美術館は存在しておらず、明治に入ってヨーロッパにある「ああいうものをつくろう」という話になり、コレクションがないから博覧会を開催してその出品作を収めるところからスタートしています。そんな経緯もあり、期間限定の特別展、企画展を中心とした「お祭りを見に行く場所」的なイメージが浸透しているように思えます。本来は、たとえばルーブル美術館に行けば二〇〇年以上所蔵されている「モナ・リザ」がいつの時代でも鑑賞されています。子どものときに鑑賞して、大人になっても鑑賞する。素晴らしい作品はそういうものでしょう。このように横浜美術館もコレクションをもっとアピールして、コレクションを中心とした場所として再編するということです。そのためにはコレクションを改めて点検して整備して、見せ方や収集方針を考えていく必要があります。そういうことに取り組んでいきたいと考えています。

横浜美術館は2021年3月から2年を超える改修工事に入りますね。

ヨコハマトリエンナーレの終了後に、ひとつ企画展を開催した後、改修工事の期間中は休館となります。ワークショップや小さな展覧会などを検討していますが、コロナ禍があり、まだ練り直しが必要です。ただ美術館の多様性と、コレクションを活かしていくという考え方は、再開後のイメージでありそれはブレることはありません。横浜美術館は開館時から「みる、つくる、まなぶ」という基本方針を掲げてきました。展覧会で芸術作品をみていただくことはもちろん、本格的な造形活動を行うためのアトリエがあり、豊富な蔵書をもつ美術情報センターなどで学ぶことができます。この3本柱にコレクションを連携させた活動を展開していきたいと考えています。また休館中には皆さんに忘れられないように、美術館としてさまざまな発信をしていきたいとも思っていますし、再開後に向けてスタッフの意見や希望を聞いて、私は皆がやりたいことを整理してまとめていくような役割も果たしていきたいと思っています。

横浜美術館にて(9月8日取材)
インタビュアー広報委員 福井

2020.11

コロナ禍でも、オンライン出展や越境ECなどを活用してビジネスチャンスを提供しています。
蔵屋 美香

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