2023.05
ヒト、貿易、経済、技術など各分野における 友好関係をさらに深め、広げていきたい。
台北駐日経済文化代表処横浜分処 処長
張 淑玲 氏
Profile
生年月日:1968年8月13日。学歴と資格/1993年公務人員僑行政高等試験合格。1994年公務人員人事行政高等試験合格。1994年淡江大學日本研究所 法学修士。1996年外交領事人員特種試験合格。経歴/1993年行政院僑務委員会委員長 秘書官。1996年外交部長 秘書官。1998年亜東関係協会 会長秘書。2001年駐日本代表処 業務部二等秘書、一等秘書。2007年亜東関係協会 秘書部部長、文教部部長。2010年駐日本代表処 政務部一等秘書。2013年駐日本代表処 政務部副部長。2014年駐日本代表処 政務部部長。2017年亜東太平洋司 副司長 兼 亜東関係協会 副秘書長 秘書長。2017年5月17日亜東太平洋司 副司長 兼 台湾日本関係協会 秘書長。2018年亜東太平洋司 参事 兼 台湾日本関係協会 秘書長。2019年4月30日台北駐日経済文化代表処横浜分処 処長
台北駐日経済文化代表処の紹介からお願いします。
はい、台北駐日経済文化代表処は台湾の日本における外交の窓口機関です。大使館にあたる事務所が東京にあり、あとは総領事館にあたる事務所が横浜、沖縄、札幌、大阪、福岡にあります。横浜分処が開設されたのは1979年で、神奈川県と静岡県を管轄しており、パスポートの新規発給(更新も含む)、ビザ発給、台湾側への結婚婚姻届、会社設立、不動産購入など書類の認証を行う等の領事手続きのほか、貿易推進、学術・文化・スポーツ交流などの業務も行ないます。横浜は中華街があり華僑も集中しているので相互往来が非常に多いことが特徴です。
また横浜市は台北市とパートナー都市であり、議会の相互訪問、芸術家の相互派遣などをはじめさまざまな交流があります。人的交流に関しては、来週も台湾から大臣クラスの訪問団が二つ来日し、一つは神奈川県庁と横浜市庁の公務員採用試験に関する意見交換と制度の視察、もう一つはさまざまな華僑団体の視察にくる予定です。神奈川県に関しておいては台湾の七つの地方自治体と防災協定、青少年協定などを結んでおり、こちらでも連携、や交流が活発に行なわれています。このコロナ禍における2年間で、神奈川県内の小田原市、三浦市、逗子市、寒川町で新たに日台友好議員連盟が発足しています。
台湾というと優れたコロナ対策で各国の注目を集めましたが、改めてどのような対策が行なわれてきたか教えてください。
ご存じのように台湾では連続253日感染者ゼロをキープしました。コロナ対策において民主国家で唯一成功したといわれています。その大きな要因の一つが政府や国民の危機意識の高さだと思います。
台湾ではSARSコロナウイルスの感染を教訓に、2019年12月の時点で新型コロナウイルスが人から人へ感染するものと認識し、すぐに「台湾中央感染症指揮センター」を開設しました。世界保健機関へも警告の文書を送っています。まずマスクをすべて国産体制に切り替えて、マイナンバーで国民の購入日を決めました。買いだめもなく、転売には罰則が与えられるためマスクを巡っての混乱はありませんでした。
またいち早く入国者の隔離政策をとりました。私自身、父の葬儀で帰国した際、(入国後すぐに)実家には帰れずホテルで14日間過ごしました。その後はアプリによって3日間動向を辿る追跡することができます。デジタル担当大臣のオードリー・タン氏のデジタルを駆使したコロナ対策が、台湾モデルとしてその後日本をはじめ多くの国の参考になったことは周知の通りです。付け加えるなら政府は毎日記者会見を開き、今日現在の最新情報を開示し真実を伝えました。指揮系統が一本化されフェイクニュースに踊らされなかったことも大きかったと思います。さらに忘れてはならないのは台湾と日本の協力関係です。(台湾からは)マスク200万枚と(日本からは)ワクチン420万回分を互いに贈り合ったことは、真の友であることの証です。
お互いに良い感情をもっていることはいろいろな調査などでもデータとして出ていますね。
そうですね、一昨年、中国が輸入を禁止した台湾パイナップルは在日華僑や日本の各自治体からも応援をいただき、輸出用パイナップルの60%以上が日本に出荷されました。また2年連続で横浜市役所で開催されている「台湾ウィークin横浜」は日本の皆さまから好評いただいており、とても嬉しく思っています。こうしたことからも今後も良い関係を続けていくために、一人でも多く台湾のことを知っていただき、台日関係に興味をもっていただければと思います。
私たちが毎年世論調査を行っているなかで、日本と台湾は相思相愛の仲であると確認しています。台湾の人たちで日本を訪れたいと思っている人は圧倒的に一番多く、日本に対しては信頼と親しみを感じています。そして日本の台湾に対する感情も同様であると認識しています。
経済面でのトピックはありますか。
今年の大きなニュースは半導体受託製造の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本に建設している新工場の稼働が始まることです。台湾の半導体製造は10年にわたり世界ナンバーワンであり、TSMC以外にも日本に進出している関連企業は10数社あります。なかでも半導体の後工程(封止・検査)分野の世界大手、日月光(ASE)は新横浜に日本支社をおいています。
またASEも含めて半導体関連企業の6社が県内に支店を構えており、産業、経済のつながりも深いものがあります。このつながりをさらに大きなものにしていくために、台湾は日本など11カ国からなる環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11、CPTPP)」への加盟を申請しています。太平洋を囲む国々による貿易について関税を撤廃するなど地域的な自由貿易化を目指す協定であり、ヒトやモノの移動がより活発になることが期待されています。
昨今、台湾有事ということがさかんに言われ、懸念されていますが、台湾にとって必要なのは価値観を共にする自由と人権を守る法治国家である日本、アメリカ、ヨーロッパの国々と連携をして、この地域の平和と安定のために貢献していくことです。そのために特に大事なことは経済安全保障です。経済的にもっと自立をし、存在感を高めていくためにもCPTPPに参加したい。地域連携を深めることでウクライナのようなことをアジアで起こさせないために、皆さまの協力を必要としています。CPTTPをリードしている日本においてそういう考えをもつ方が一人でも多く出てほしいので、機会があれば私はどこへ行っても出向いて講演をしたいと思います。
本誌の読者に向けてメッセージをお願いします。
台湾をもっと多くの方に知っていただきたい。名物のかき氷、フライドチキン、タピオカミルクティ、小籠龍包など食べものから興味をもってもらうのでもいいです。
今後、台湾祭りも各地で行っていきますし、そういうイベント開催の予定はお知らせしていきますので機会があればご参加ください。
またコロナ以前は日本と台湾の往来は年間700万人以上にのぼりましたが、昨年9月からはコロナ対策として行なっていた渡航制限を緩和し、ビザなしで訪台できるようになりますした。入国後の隔離なども無くなり、水際対策は大幅に緩和されています。コロナ以前の交流が期待されるなかで、航空路線も相次いで再開しています。ぜひまた台湾を訪れていただきたいと思います。
台湾は日本の中高生の海外修学旅行先として過去6年連続一位を記録したこともあります。神奈川県に関しては修学旅行先を「海外」とした学校のうち、9割の学校が台湾を留学その旅行先に選んでいただいています。現在、両国の国民感情が良いのは私たちの前の世代の努力の賜物ですから、10年後20年後にさらに良好な関係にしていくために、青少年の交流は不可欠です。両国は人的な交流はもとより貿易、経済、技術などの分野でも重要なパートナーですから、この友好関係をさらに深め、広げていきたいと思っています。
台北駐日経済文化代表処横浜分処にて
2月13日取材
インタビュアー福井