2024.07
弁護士会を身近な存在として感じてもらい 「よろず相談窓口」としてお役に立ちたいですね
神奈川県弁護士会 会長
岩田 武司 氏

Profile
よこはま第一法律事務所代表パートナー弁護士。1966年東京都調布市生まれ。神奈川県立光陵高校、青山学院大学卒。1993年司法試験合格、1996年4月神奈川県弁護士会(当時:横浜弁護士会)登録。横浜市都市美対策審議会委員、青山学院大学法科大学院客員教授、神奈川県弁護士会副会長、同常議員議長、司法研修所民事弁護教官などを歴任した後2024年4月より神奈川県弁護士会会長。その他公益社団法人企業メセナ協議会監事、公益財団法人大和地所記念財団評議員等を兼務。横浜商工会議所会員。
神奈川県弁護士会の紹介からお願いします。
神奈川県弁護士会は、神奈川県内に法律事務所をもつ弁護士、弁護士法人が加入している法律で定められた公法人です。弁護士会は地方裁判所の管轄地域ごとに設立されていて国内に52あり、その統括機関として日本弁護士連合会(日弁連)があります。弁護士は必ず管轄の弁護士会に所属することになっていて、当会の会員数は5月1日現在1789人です。本部は横浜にあり、川崎、小田原、横須賀、相模原に支部を設けています。
具体的な活動としてはどのようなことがあげられますか。
対外的なものと対内的なものにわけてお話しすると、まず対外的なもので一般の方にとって接点となるのは法律相談センターになります。本部と支部の所在地のほか県内各地に設けられていて、全部で12の法津相談センターが開かれています。交通のアクセスが良い場所が多く、相談担当者には弁護士会のなかでも経験豊富な会員がなっていますので、どなたも安心してご相談いただけると思います。
法律相談は近年増えており、相続、遺言から消費者被害、交通事故問題、子どもの人権、いじめなどの学校問題など、お問合せいただければ問題の中身に応じて対応させていただくことも可能です。また事業者向けの法律相談も承っておりますので経営再建、労務などをはじめ様々な問題についてご利用ください。また県内の大学との連携もあり最近では神奈川大学、関東学院大学と包括連携協定を結び、授業や講演会などでの交流を通して法曹教育の充実を図っております。このほか自治体との連携もありますね。今年の4月以降、私も県知事をはじめ横須賀市、川崎市の市長と面談をし、それぞれが抱えている問題について助言させていただき、今後の協力課題についてもお話させていただきました。
多様な活動をされているのですね。対内的にはいかがですか。
たとえば弁護士のスキルアップのための研究会があります。
知的財産権をテーマにした研究会といったように、専門的なスキルを高めるための機会を多く設けています。私自身もこうした研究会に参加することがあります。また当会の理事会が毎週火曜日に開催されていて、5人の副会長と朝の10時から夕方6時過ぎまでさまざまな議題について話し合っています。このほか各地への出張もあります。これは会長だけですが、日弁連の理事会が毎月開催され、そこには全国の弁護士会の会長が集まり2日間にわたって朝から夕方までびっしりと話し合いが続きます。そのほか会長としては、できる限り毎日弁護士会の本部には顔を出すようにしていますし、なかなか忙しい毎日を送っています。
今年4月に会長に就任されましたが、会としての課題をどのような点で感じられていますか。
就任時の記者会見でもお話させていただきましたが、課題として考えているのは「会の知名度を上げて弁護士をもっと身近な存在として感じてもらえるようにすること」です。
神奈川県弁護士会という名称を正確に知っている方は少ないし、何をやっている団体なのか知られていない、また弁護士に相談するにはどうすればいいのか分からない、というのが実情だと思います。弁護士に依頼することに対して、敷居の高さを感じていらっしゃる方が多いようです。一般の方は実際に相続や離婚、交通事故の問題などが発生すると弁護士に相談されますが、そういうケースだけでなくてもいいんです。トラブルでなくても何か不安なことや心配ごとがあったら気軽に弁護士に相談していただきたいと思っています。私たちは皆さんの「よろず相談窓口」としてお役に立ちたいのです。
ですから弁護士会の執行部としては、今年度、弁護士や弁護士会への理解を深めていただくための取り組みを進めていきたいと考えています。

20年前にロースクール(法科大学院)が設置され、弁護士の数が増えたと聞いたことがありますが、現状はいかがですか。
確かにロースクール制度以降、司法試験への受験者数、弁護士の登録者数は毎年増えていきました。そのことで供給過剰が指摘され、一時メディアなどで「弁護士になっても食べていけない」といった報道がされるようになったことも影響して、弁護士を志望する人が減ってしまいました。
一方、実際には弁護士へのニーズは増えていて、現在では、東京は別として弁護士の不足がむしろ問題になってきています。全体的に、一般の方でも法的なトラブルに巻き込まれたりすることも多くなっていると思いますが、さらに企業においてはコンプライアンスや風評被害のようなリスクにも対応する必要があったり、労使の問題があったり、弁護士が必要とされる場面が多くなっていると思います。ですから、今はもっと弁護士を志望する方が増えてほしいと思っています。
ちょうど現在、NHKの朝ドラで日本初の女性弁護士、裁判官になった方(三淵嘉子さん)をモデルにした番組が放映され話題になっていますが、女性も含め多くの方に注目され法曹界を目指すきっかけになるといいなと思っています。余談ですが実際の三淵さんは家庭裁判所の産みの親としても知られ、裁判官を退官されたときは横浜家庭裁判所の所長でした。
就任されてまだ一か月ですが、今後の抱負、あるいは法人会員へのメッセージなどをお願いします。
弁護士ニーズは増えているとお話しましたが、私は弁護士が力を貸せる分野、弁護士が必要な局面というのはまだまだあると実感しています。特に中小企業では先ほども申し上げたような法的な問題が山積していますし、法務・管理的な考え方を経営に積極的に活かしていこうという会社も増えています。けれども実際には顧問契約をしているような企業であっても、弁護士の使い方が今ひとつ上手くない方も多いです。特に皆さんからご相談いただくタイミングが遅く、「もっと早くご相談いただければ」と思うことが少なくありません。
本誌読者の法人会の皆さまも、たとえば新規プロジェクトの立ち上げや事業継承などいろいろあると思います。扱う分野によって司法書士さんや行政書士さんもいらっしゃいますが、弁護士ならすべての分野のご相談相手、そして代理人として業務を行うことができますので、まずはよろず相談の窓口として、ぜひ我々をご活用していただければと思います。
最後になりますが男女共同参画についても以前より取り組まれてきたテーマとお聞きしています。
社会的、経済的に弱い立場にある方に寄りそう弁護士会にしたいと考えていますが、そのひとつが男女共同参画の推進で、個人的にも昔から選択的夫婦別姓に強い関心を持ってきました。
1996年、法制審議会で選択的夫婦別姓の導入を国へ提言しましたが、28年経った今も具現化していません。1996年というのは私が弁護士になった年でその点で少し縁を感じているところもあり、また現在の日弁連の渕上会長は初の女性会長としてこの問題に長く取り組んでこられた方であって、国会、政府に強く働きかけていく意志を表明されています。
困っている方が多くいる問題でもあり、当会としても社会のために実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。
よこはま第一法律事務所にて(4月24日取材)
インタビュアー福井