2024.05
横浜の国際港としての競争力を高め、世界の船会社の 物流パートナーとして機能することを目指します。
横浜川崎国際港湾株式会社 代表取締役
人見 伸也 氏
Profile
昭和59年4月日本郵船株式会社 入社。 平成7年4月 NYK Line(HongKong)Manager。平成17年4月 NYK Line(Italy)President&Chairman。 平成23年4月 日本郵船株式会社 秘書グループ長。平成25年 4月 同 港湾国内グループ長。平成26年11月 同 港湾グループ長。 平成28年4月 同 港湾グループ長。平成30年4月 同 経営委員。令和2年6月 同 執行役員。令和3年1月 横浜川崎国際港湾株式会社 取締役。令和3 2月 同 代表取締役社長(現任)
まず2016年設立と比較的若い会社の、設立経緯からご紹介ください。
当社は京浜港における港湾運営会社として設立されました。近年、国際基幹航路といわれる北米航路、欧州航路などが日本に寄港しないケースが増えています。
世界の製造業の生産工場が中国や東南アジアへ移り、コンテナ船は韓国や中国などで積み換えをするようになっています。このような状況に対して、日本の国際港の競争力を高めて、国際基幹航路の寄港を維持拡大させようという国際コンテナ戦略港湾政策というものがありまして、当社はその実現のために横浜港、川崎港のコンテナターミナルの整備運営を行っています。主に国と横浜市、川崎市の出資によって生まれましたが、同様の目的をもった会社が大阪、神戸にもあります。
3年前に社長に就任されましたが、ちょうどコロナ禍の真最中でなにか支障はありませんでしたか。
私自身のキャリアは1984年以来日本郵船に37年間勤続。その間、秘書グループ長、港湾グループ長、タンカーグループ長などを経て、2018年に執行役員になりました。
2021年に横浜川崎国際港湾へ移り、2月から社長を務めています。コロナ禍において会社としては現場でオペレーションをしているわけではないので、業務的には大きな支障はありませんでした。ただ港全体としてはエッセンシャルワーカーの方もいるので予防には非常に気を遣っていたと思います。アメリカや中国の港はコロナ感染が広まったことで機能不全になり世界中の物流が大混乱に陥りましたけどね。個人的には就任当初は、ご挨拶に回ることもできないし、業界の会合にも出席できないといったスタートでした。就任後2年ほどでようやく日常が戻ってきて、周囲とのコミュニケーションもできるようになり、横浜港のコンテナ取扱量もコロナ禍前の水準に戻りつつあります。また昨年は海外のコンテナターミナルの視察にも力を入れました。台湾、シンガポール、中国、北米、ヨーロッパに中東にも行きました。世界の港湾関係者と意見交換などをしてとても有意義でしたね。
会社の業務内容的なことを具体的に教えてください。
一つには国や市から土地を借りて舗装したり事務所棟をつくったりして、キリンのようなカタチをしたガントリークレーンなどを設置して事業者さんへ貸し出す業務があります。分かりやすくいうと家具付きアパートを建てて、それを貸し出す大家さんのような仕事です。
もう一つは国の政策を実現する会社ですから、国や市とともに国際基幹航路を寄港させるためのアプローチを国内外の事業者さん向けに行っています。今、私たちがアピールしているのはナショナルセキュリティ的なことで、一つの国や港に依存していると国際情勢の変化においてリスクが高いので、社会的、政治的、経済的に安定している日本を物流、積み換えの場所にしてはいかがですか、といった営業ですね。たとえば東南アジアの貨物が釜山でトランジットして積み換えをしてアメリカへ向かっているのを、横浜でトランジットしてもらえるように誘致しているのです。むろん簡単なことではありませんがね。
日本は島国なので全国に多くの港があり、なかでもコンテナを積み上げられる港は実に70もあります。それだけの港に日本に出入りする貨物が分散されている。韓国の人口は日本の約半分ですが釜山港に扱い貨物量を集中させているため世界でも有数の国際港として発展し基幹航路が寄港します。日本はこういったコンテナターミナルの在り方にも議論があるかもしれないのですが、それを論じるよりまずは中国や韓国と競争できる港湾機能を強化する必要があります。
現在の港湾運営における課題はほかにどのような点にありますか。
私たちはコンテナ船のコンテナターミナルの担当になりますが、港全体として船種は自動車専用船、石油や石炭などのエネルギー船、大型客船、タンカーなどいろいろありまして、これらの再編が行われています。
横浜のコンテナターミナルは大黒、本牧、南本牧ふ頭の3埠頭にわかれていましたが、近年の自動車貨物の増加やコンテナ船の大型化への対応の必要性から、大黒ふ頭を自動車貨物中心の拠点にして、本牧ふ頭と南本牧ふ頭にコンテナターミナルを集約しようとしています。南本牧ふ頭は市街地から遠く離れ、ほとんどの市民の皆さんの目にふれていないと思いますが、なぜ遠くにあるかといえば大型船に対応する必要があるからです。現在の大型船のサイズは約400mの長さがあり、ランドマークタワーより100mも長いんです。それだけのサイズの大型船が入れるのは日本で南本牧ふ頭だけで、ペリー来航当時からこのあたりは天然の良港であり、十分な水深があり土砂の堆積も少ない特徴があります。この埠頭の有効活用が今後の一つの課題になっています。
環境にやさしい港への取り組みにも積極的だと聞いています。
はい、環境対策においてはたとえばコンテナターミナルの中で働く機械のハイブリッド化や電化のサポート、広大なヤードを照らす照明にLED照明を導入するなどに取り組んでいます。
本牧ふ頭ではコンテナターミナル内の電気をすべて再生可能エネルギー由来のものに切り替えています。国内コンテナ輸送においては内航船、はしけ、鉄道などを活用したグリーン物流へのシフトを推進しCO2排出量の削減や道路混雑の軽減を図っています。また、南本牧ふ頭では、荷役機械の燃料を軽油から水素に切り換える現地実証の準備が進められています。
今後の抱負、展望をお願いします。
去年世界各国のコンテナターミナルを視察して、世界の港湾管理の役割は「物流パートナー」にシフトしつつあると感じました。
コンテナ船の業界はグローバルな激しい競争の歴史を経て、国際基幹航路を運営するような船社は超巨大化しています。彼らは世界中に自営ターミナルを持ち、毎年進化させています。そのような船社が私たちの顧客でありパートナーであるわけですから、彼らのことを良く理解しパートナーとして寄り添った対応が必要と感じています。また横浜港では現在、本牧ふ頭に隣接する「新本牧ふ頭」を建設中です。将来を見据えた国際コンテナ戦略港湾としてコンテナ船の大型化や貨物量の増加に対応するため、大水深・高規格コンテナターミナルと高度な流通加工機能をもったロジスティクス施設を一体化した最新鋭の物流拠点が形成されます。その実現に向けた取り組みをしっかり行っていきたいと考えています。横浜港は当社も含めて港湾関連の技術力がしっかり維持できていると理解しており、その独自の技術力を次世代に引き継いでいくことも使命と感じています。
横浜川崎国際港湾株式会社本社にて(2月29日取材)
インタビュアー福井