2026.04
安全保障において日本は中期的にミドルパワーの 連合を主導していくべきだと思います。
東京大学先端科学技術研究センター准教授 軍事アナリスト
小泉 悠 氏
Profile
2007年3月 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。2008年2月 公益財団法人未来工学研究所 特別研究員。2009年1月 外務省情報統括官組織 専門分析員。2009年12月 世界経済国際関係研究所 客員研究員。2011年4月 国立国会図書館 非常勤調査員。2019年3月 東京大学先端科学技術研究センター 特任助教。2022年1月 東京大学先端科学技術研究センター 講師。2023年12月 東京大学先端科学技術研究センター 准教授。
小泉さんが軍事や安全保障に興味をもったきっかけはどのようなものでしたか。
子どもの頃から軍艦のプラモデルを作っていたりして、典型的な軍事オタクだったんですね。中学生のとき、図書館で軍事評論家の江畑謙介さんの著書と出会い「世の中にはこういうことをしている人もいるんだ」と、仕事として意識し始めました。ただ軍事評論家には資格もないし、どうやってなるのかも分からない。とりあえず大学に進学し大学院では政治学研究科を専攻しましたが、国際秩序論などには興味を持てず論文も満足いく仕上がりではなく、研究者の道は諦めて卒業後は一度サラリーマンになりました。
学時代からロシアへの関心は持っていたのですか。
そうですね、ソ連崩壊後にロシアの情報が少しずつ入り始め、当時は特別感がありまして、他の人とは違うことをやるオタク心が刺激されたんでしょうね(笑)。軍事評論家のような仕事を目指したい気持ちはありましたが、それで食べていけるわけがないという現実との狭間にありました。大学院生のときに初めて「軍事研究」という専門誌にロシアの軍事力に関する記事を書かせてもらって、サラリーマンを挫折した後も投稿は続けていました。もちろんそれだけで生活は成り立っていませんでしたが。
どのような経緯で軍事評論家、アナリストとしての道が開けていったのでしょう。
直接仕事につながったわけではありませんが、一つの転機としては2009年に外務省の事業であったロシアとのフェローシップのメンバーに採用されて、モスクワの研究所で学ばせてもらったことがあります。1年プラス私費で半年、約1年半滞在し、ロシアの研究者や軍関係者とも人脈を築けた貴重な体験でした。ちなみにその際、ロシア語もしっかり身に付けようと日本語のできる家庭教師をお願いしたのですが、そこで出会ったのが現在の妻です(笑)。
帰国した後は、公益財団法人未来工学研究所の研究員として長く仕事をし、国会図書館の調査員を兼務していた時期もありました。そういう仕事の合間に軍事研究もして、というスタンスでした。潮目が変わったのは、2014年にクリミア併合やドンパス紛争が起き、ロシアに対する脅威からロシアや軍事についてメディアで発言したり書いて欲しいという依頼が急に増えました。それが軌道に乗り、個人事務所を立ち上げたばかりの時に、東京大学の池内恵先生から「東大で働きませんか」とお声がけいただき、悩みましたが東大で働けるのも貴重な経験だと思い、2019年に東京大学先端科学技術センターの特任助教になり、2022年に専任講師、翌年に准教授になって現在に至ります。
さて昨今、世界情勢、世界秩序がますます不安定化していますが、は現在の日本の安全保障について、どのようなお考えをもっていますか。
短中期で見たとき、短期においては残り3年のトランプ政権においてアメリカのアジアに対するコミットメントを引き留めることに力を尽くすべきだと考えます。
外交、軍事、経済などすべての面で関りをもってつなぎとめるべきで、仮にアメリカに去られた場合、日本は孤立し抑止力が維持できなくなり、ロシア、中国といった大国からの大きな脅威にさらされます。日本とNATOの違いは、NATOはアメリカが出ていったとしても同盟国による集団防衛が可能で、核保有国もあります。ロシアの軍事力に対して相当程度持ちこたえられる軍事力もあります。しかし日本には核抑止力、同盟国のいずれもありません。ですから、軍事的にアメリカ抜きでは話にならないので短期ではあらゆる手段をもってしてもアメリカをつなぎとめるべきと私は考えています。
中期的にはその考えは変わってきますか。
できるだけアメリカをつなぎとめることに変わりはありませんが、アメリカが去った後の準備もしておくべきだと思います。先日カナダのカーニー首相がダボス会議で非常に印象的な演説をしました。大国の競争が激しくなり、ルールがないがしろにされつつあるなか、中堅国家が結束し連帯し、新しい秩序を構築しようという発言でした。
確かに冷戦後の世界は大国が自制的な時代でしたが、そういう幸せな時代が終わり、最も頼りになると思っていたアメリカでさえ暴力性を発揮するようになってきた。大国の力の論理を抑止するために別のメカニズムを作る必要があり、それがカーニー首相の言う中小国の連合です。日本では北岡伸一先生が「西太平洋連合」を提言されていますが、大国がすべて好きにできるわけではないというルール作りを日本が主導すべきだと思います。
ロシアとウクライナの停戦はいつ実現するでしょうか。
ロシアはウクライナを支配下に置きたいわけで、ウクライナの主権にかかわることに口出しできる停戦条件を主張していますが、これはウクライナにとって絶対受け入れられないものなので、戦争は続いていくものと考えられます。ただしロシアは戦死者、重傷者がものすごい数になっており 武器や弾丸も増産していますがそれだけで戦場の損失はカバーしきれません。現在の規模での戦争はもってあと1年、その後はスケールダウンした戦争が長期にわたり続くというのが私の予想です。
ご自身としてはこれからどのようなキャリアを描いていますか。
現在の職場は任期が10年になっていますが、すでに衛星画像を用いて危機察知などを行っている安全保障の分析シンクタンク、一般社団法人DEEP DIVEを立ち上げていて、軌道に乗りつつあるので退職後はそちらに専念することになると思います。
また今43歳ですが40代のうちにもう一度在外研究をやっておきたい。たとえばロシアと隣り合ってきたスウェーデンやフィンランドあたりに拠点をもち研究に打ち込みたいです。あと大学院は修士で終わっているので博士号を取得したい。50代に入ってからは軍事研究とは違うこともチャレンジしたい、たとえば新しい言語を学ぶとか、考えていくとやりたいことがたくさんありますね(笑)。
これからのますますのご活躍を期待しています。ところで意外に知られていませんが小泉さんは横浜市民ですよね。
はい、横浜市民であり中区民です(笑)。結婚後は私の実家がある松戸市に住んでいましたが、子どもが小学生にあがる頃に自宅の購入を検討しました。その際の第一候補が横浜でした。友人の自宅に招待されて好印象を持っていたことや、妻が日本語の通訳案内士として観光ガイドの仕事を通して横浜をよく訪れ「とても良い街」だと気に入っていたことも大きかったです。横浜市民になって今年で10年になり、この街の生活に大変満足しています。これからも様々な場所、機会において地元の企業の皆さまとお会いできる機会があることを楽しみにしています。
東京大学先端科学技術研究センターにて(1月28日取材)
インタビュアー福井













